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米銀大手リーマン・ブラザーズの経営破綻や米政府による異例の救済に至った米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループの経営危機に象徴される2008年の世界金融危機では、経営危機が世界中の金融機関に連鎖的に拡がり、金融システムの機能が大いに損なわれる事態に陥りました。金融システムの機能が損なわれると、資金を必要とする企業、団体、個人への資金融通が途絶え、実体経済に深刻な打撃を与えます。世界金融危機以降、個々の金融機関が抱えるリスクだけでなく、財務的なストレスが金融機関から金融機関へ瞬く間に伝染して金融システムの安定が失われ、金融システムの機能が損なわれる事象に係るシステミック・リスクの理論的な解明や実証的な検証についての研究が注目されています。

このような研究の主要な課題に、金融システムの中枢の役割を担い、システミック・リスクを左右する金融ネットワークの解明があります。資金融通や金融派生商品を通した関係性が入り組んで重なり、銀行は世界規模の複雑な金融ネットワークを形成しています。複雑ネットワークやビックデータ分析の方法論を援用し、金融ネットワークの構造が解明されつつあります。財務的なストレスの伝染が銀行の財務に与える影響を再現するモデルの開発が進み、国際的な自己資本比率規制と銀行の連鎖倒産の関連をシミュレーションで分析する方法も発展しつつあります。

近年、世界金融危機での教訓を踏まえて、システミック・リスクに係るさまざまな種類の事象に対応したビックデータの収集、リスク定量化のためのモデルの構築や検証、リスク低減に向けた経営判断や規制設計のための方法論を確立する研究が重要になっています。研究成果をスタンダードな方法論として世界の広く発信し、システミック・リスクについての共通の理解を醸成することも重要になっています。システミック・リスクについてのアラームやレポートを提供することにも意義があります。

本研究会は、産学官にわたる経済学、ファイナンス、金融情報学、情報工学、経済物理学、複雑ネットワーク科学の多くの研究者や実務家がシステミック・リスクと金融ネットワークに関する課題認識や研究成果を共有するネットワークを組成しながら、研究交流を深める学術的研究会の立ち上げを目的とします。システミック・リスクの分析と対になる課題として、金融ネットワークを介して促進されるイノベーションの分析も課題となるでしょう。また、金融機関の間の関係性を土台として、金融市場や非金融セクタの産業構造や企業ネットワークまで含めた金融ネットワークを分析することも課題となるでしょう。さらに、データ収集、リスク定量化、リスク低減の方法論だけでなく、データの共有やモデルの相互検証といった枠組みを議論していくことも課題となるでしょう。本研究会は、システミック・リスクと金融ネットワークのさまざまな課題について自由に討論できる場を提供するとともに、国内の研究の水準を国際的な先鋭的研究の水準に高めることを目指します。