オープンフォーラム

金融市場の安定、多重性の生成、そして取引戦略の役割

  • 森谷博之(Quasars22)
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絶対収益リターンを狙うトレーダーたちは、独自のアイデアで開発された多種多様な取引戦略を、適時改良することで継続的な成功を収めている。マーケットの魔術師の著者であるジャック・シュワッガーは、65名の著名なトレーダーたちにインタビューを行い、彼らの取引戦略の多くが、独自のアイデアに基づく適応的戦略であると報告している。また、フィッシャー・ブラックは、彼独自の一般均衡理論をもとに、市場がより一般均衡に向かう方向に取引を実行することで高い収益が確保される、と述べている。そして、ブラックはその収益の源泉が政府関係機関の市場介入であると報告している。

本発表では、トレーダーは損失限定型、かつ自己資金調達型(self-finance)の戦略を用いると仮定し、危険資産、非危険資産に投資する。資金の量、トレーダーの数、そしてティックの動きに着目し、金融市場を熱力学における孤立系、閉鎖系、そして開放系として定義する。そして、多重性(多重性の対数はボルツマンのエントロピー)の概念を用いて取引戦略を分類し、それらの役割を議論する。

熱力学の孤立系では、非平衡状態は、時間の経過とともに平衡状態に近づいていく。金融市場においても、ある時点で現金の量、トレーダーの数等を固定することで、孤立系を定義できる。そして、金融市場の平衡状態を、実現ボラティリティーを用いて定義し、価格変動が非平衡状態から平衡状態へ向かう過程を説明する。この活動の期間はナノ秒の場合もあれば、数時間、数日に及ぶこともある。

経済指標、財務報告などの新しい情報が市場に齎させる、または外生的なショックが発生する場合には、孤立系を開放系に置き換えることで、金融市場で起こる現象をモデル化できる。この枠組みでは、資金の流入・流出、トレーダーの参入・退出をモデル化する。開放系では、数分から数年の周期で起こる現象を捉えることができる。金融市場では、この2つの過程が常に繰り返されていると考えられる。

さらに閉鎖系の概念を用いて、取引の瞬間においては取引を実行しようとしているトレーダーの取引相手が、多種多様な資金量と取引のタイミングを持ったトレーダーの集団に属する必要があることを理解する。そして、この適応的で多種多様、かつ独自の取引戦略をもつトレーダー集団が、市場を安定に導き、かつ継続して成功していることを直感的に理解する。